250年以上も前に作られ、現代の科学の力をもってしても、今だ解明されることができない製作行程で、神秘の楽器と称される最高級の名器。
1737年の12月18日、バイオリン製作者のアントニオ・ストラディバリが、イタリア北西部のクレモナで亡くなった。音楽にあまり詳しくない人でも「ストラディバリウス」の名を耳にしたことがあるはず。これは彼の製作した楽器のラベルには「Antonius Stradivarius Cremonenfis」という書かれていたためだ。250年以上も昔に作られたバイオリンでありながら、現在も名器と歌われ著名なバイオリニストに愛されている。
 バイオリンの原型が生まれたのは16世紀の初頭、イタリアにおいてだといわれている。当時はバイオリンの音色は品のないものとされ、どちらかと言えば下級の楽器と考えられていたそうだ。それがだんだんに改良が加えられ、ストラディバリの師匠ニコラ・アマーティや、ストラディバリと並び称されるジュゼッペ・グアルネリ、そしてストラディバリなどの巨匠たちが、現在のバイオリンの模範を生み出した。
 中でもグアルネリはストラディバリのライバルで、彼の作成した「グアルネリウス」は18世紀末から19世紀前半に活躍した天才・パガニーニにも愛用された。そして20世紀に至るまで、幾多の名バイオリニストが愛好しているというからバイオリンは17世紀から18世紀にかけて最高のものが生まれ、以来、それを超すものは現れていないとさえ言えるのかもしれない。
 ストラディバリは1644年の生まれ。亡くなったときは92歳という高齢だ。現代ならばちょっとした手術で直るような病気でも、命取りになりかねなかった時代だから、この命強さは驚嘆に値する。そして偉大な父が長生きだったおかげで、彼の息子たちはその名声の陰に隠れ、弦楽器製作者としてはほとんど名をなさずに終わった。しかし、そんな息子たちの作成した楽器にも「Antonius Stradivarius Cremonenfis」のラベルが貼られたそうだから、たとえストラディバリウスという銘があっても、真作かどうかは疑わしいものが存在するそうだ。
 本当に父親のアントニオ・ストラディバリの作と言われているバイオリンはおよそ600。そして最も素晴らしい出来映えのバイオリンは、彼が50代後半から70代前半だった18世紀初頭のものだと言われている。その他、チェロやビオラも50ほど製作しているが、こちらも彼の製作した楽器が現在の模範となっており、名器と呼ばれている。音色の華麗さや、楽器そのものの姿の美しさなど、史上最高のバイオリン製作者といわれる彼だが、息子達には伝えられなかったのか、伝える気がなかったのか分からないが、その技術は今日も謎とされているという。

(ZDNet/Japanより抜粋)